堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
突然、目の前に現れたのは無数の蛍。
ゆらゆらと点滅しながら漂う蛍だ。
圧倒的な数に息を飲む。
京都には蛍が生育されているところはいくつかあるが、彩芽は見たことがなかった。
初めて見た蛍は、儚くて尊くて切ない。
あまりの感動に、彩芽はぶるっと震えた。
「寒い?」
タロちゃんが後ろから抱きしめてくれる。
「彩芽と二人で見たかった」
耳元で小さく呟くタロちゃんの声が愛おしかった。
「これから『まつの』で修行をした成果を出さなあかん。そういう約束で修行をさせてもらった。したいこと、やらなあかんことが山積みや。目途がつくまでには時間がかかると思う」
しばらくの間があって、タロちゃんは続けた。
「待っててほしい。それは俺のわがままか?」
クスっと笑いがこぼれた。
「〝待たない〟なんていう選択肢があるわけない」
彩芽を包むように抱くタロちゃんの腕を、彩芽も抱きしめる。
「タロちゃんの夢を叶えて。私はいつまでも待ってる」