堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

百合ちゃんが秘書課に来て半年。始めはどうなることかと心配した百合ちゃんだったが、人はここまで成長するのかと驚くばかりの変化を遂げた。

催事部の手書きの仕事に専念してもらった後、彩芽はタロちゃんからのアドバイス通りに、一つずつ百合ちゃんの仕事を増やしていった。

一つの仕事がきちんとできるようになるまではその仕事に専念する。そうやって少しずつできることを増やしていく。

この方法は、百合ちゃんに合っていたらしい。

自信がついてきた百合ちゃんは、いつの間にか秘書課に馴染んでのびのびと過ごせるようになっていった。

しかも、秘書課に素晴らしく字が綺麗な新人がきたという噂が拡がり、手書きの仕事がいろんな部署から持ち込まれるようになった。そのことも自信をつけるのによかったようだ。

人に感謝され褒められるというのは、何よりも成長への糧になる。

明るい顔で仕事をこなすようになった百合ちゃんを見るのは、彩芽にとっても嬉しいことだった。


「今日はマカロンを持ってきました。おやつの時に出しますね」

百合ちゃんが綺麗にラッピングされた色とりどりのお菓子を見せながら微笑んだ。

「私も今日は三笠を持ってきました」

彩芽も紙袋を見せる。今日はたまたま三笠を持ってきたが、彩芽が『まつの』に行く機会は少なくなっていたので、差し入れを持ってくること自体が久しぶりだ。

「お菓子の食べ放題。うれしい!」

美鈴さんは、やったーと喜んだ。


百合ちゃんはお付きの家政婦さんからも無事卒業し、今はきちんと一人暮らしをしている。ただ、ちょくちょく元気な姿を見せることを約束させられているらしく、よく神戸の実家に戻っているようだ。そして、その度にお土産を持ってきてくれる。今の秘書課のお菓子事情は、『御影堂』のお菓子がメインになっていた。

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