堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
副社長とのブリーフィングを終えた結城さんが副社長室から出てきた。
「今日は午後に『御影堂』の副社長がいらっしゃいます。お迎えの準備をお願いします」
「わかりました」
彩芽が返事をして、ちらっと百合ちゃんを見ると、下を向いて浮かない顔をしている。
「お兄さんのことよね?」
不思議に思って訊ねると、「そうです」と小さな声で返事が返ってくる。
何か事情がありそうだ。
「私がお茶を出すから、百合ちゃんは気にせず仕事を進めてね。身内が職場に来るなんて気まずいよね」
彩芽がそう言うと、百合ちゃんはホッとしたように「ありがとうございます」と顔を上げた。
午後になって、『御影堂』の御影慧(みかげ さとし)副社長がやってきた。ほんわかした子猫を思わせる百合ちゃんとは違い、ヒョウのような鋭い雰囲気の人だ。
なるほど。御影家は猫系の顔のようだ。同じ猫科でも、百合ちゃんとは正反対のタイプだけれど…
チーム秘書三人並んで出迎えをしたが、百合ちゃんはやはり浮かない表情で下を向いている。
御影副社長は百合ちゃんを鋭い目で見た後、小ばかにするようにフッと笑った後、副社長室へと入っていった。
ものすごく感じ悪い。とても妹に対する態度とは思えない。彩芽はザラリとした嫌な気持ちになった。
百合ちゃんは、お兄さんが視界から消えてあからさまにホッとしている。
「私がお茶を出してくるから、百合ちゃんは気にしなくて大丈夫」
さっき言ったことをもう一度繰り返した瞬間、副社長室の扉が開いて「御影さんちょっと」と結城さんから声がかかった。
残念ながら、百合ちゃんは無関係とはいかないようだ。
「ハイ…」
いかにもがっかりという雰囲気を醸し出しながら、百合ちゃんは副社長室へと入っていった。
「なんか大変そうね。百合ちゃん大丈夫だといいけど…」
美鈴さんも心配そうにしている。
「お茶を出すついでに様子を見てきます」
彩芽は足早に給湯室に向かった。