堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
朝のお茶を出すために、副社長室に入る。
「おはようございます」
そう言いながら、デスクにお茶を置くと、副社長が毎朝ニュースをチェックしている自分のタブレットを彩芽の方に向けた。
「これ、見てみろ」
何事かと思い、画面をのぞき込むとそこには『速報!快挙!日本人初』という見出しが見えた。
その下には、『フランスで最も権威のある製菓コンクール 金賞受賞!』と続き、トロフィーを持ったパティシエらしき人の写真が載っている。
見覚えのある作務衣に、黒のエプロン。
微笑みのかけらさえない真剣な顔。
久しぶりに見るタロちゃんだった。
「タロウやったな。ついにやりよった…」
副社長が感慨深げに言う。
彩芽はぼんやりと見ていたが、副社長に「大丈夫か」と気遣われてハッと気づく。
知らない間に、涙が出ていたようだ。
「はい。タロちゃんすごい。よかった…」
慌てて手で押さえるが、涙が次々と溢れて止まらない。
「続きもちゃんと読んでみろ」
そこには、金賞を取ったお菓子の写真も載っている。
紫芋のクリーム、こしあん、カスタード、生クリーム。四種類のクリームで作られたモンブランのようなケーキだ。
スポンジには抹茶を使っていて、上には食用の花びらが散っている。目にも鮮やかな、彩の綺麗なケーキだった。
ケーキの名前は『彩芽』。
そこにはタロちゃんのインタビューも添えられていて、「彩が芽吹いていく様を表し『彩芽』と名付けました」と書いてあった。
「もっともらしい理由を考えたな。相変わらず堅い奴や」
副社長はハハハと笑った。