堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
「和泉篁太郎(いずみ こうたろう)」
彩芽はつぶやいた。
「タロちゃんは和泉篁太郎っていう名前なんですね…」
「知らんかったんか」
副社長は驚いたように言った。
「はい。私、何にも知りません。『京泉』の和菓子職人だということしか…。名前も知らないなんて呆れますよね」
下を向いて、涙をぬぐう。
「教えて下さい。タロちゃんは一体何者なんですか?」
すがるように副社長を見る。
でも、副社長は彩芽の質問には答えずに、質問で返してきた。
「タロウは何か約束していったか?」
彩芽はしばらく迷っていたが、コクっと頷いた。
「タロウは、守れない約束は絶対にしない。松野に何か言い残していったとしたら、それは何があっても守るはずや。タロウが何者なのか、それはタロウの口から聞くべきことで、俺が言うことではない」
がっかりして、再び彩芽は下を向いた。
「あいつはクソ真面目なやつや。『まつの』で修行している時に、松野に魅かれていったときには、ものすごく葛藤したやろうと思う。でも、抗うことができなかった。ケーキの名前見たらわかる」
顔を上げて副社長を見る。副社長は、とても優しい顔で微笑んでいた。
「臭い言い方をするが、タロウは一途に愛を貫く男や。和菓子にしても、松野にしても、思い込んだら一直線や。約束は必ず守られる。タロウの友人としてお願いしたい。あいつを待ってやってくれ。頼む」
副社長が頭を下げた。
「止めてください!そんなこと」
彩芽は慌てて止めた。
「多分、もうすぐ決着がつく。もうしばらくや。頑張れるな?」
副社長の励ますような言葉に、彩芽はもう一度コクっと頷いた。