堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

ニュースを見た日の帰り、彩芽は『京泉』の本店に寄ってみた。

店には入らず、外から中を伺う。タロちゃんが賞を取ったというのに、お店は何の変化もないように見えた。

諦めて立ち去ることにする。少しだけでいいから会いたかったのに。

「おめでとう!よかったね」と言うだけでよかった。でもそんなことも叶えることはできない。

「本当に辛いんだけど…」
彩芽はボソッと呟いた。

『京泉』本店の横には、『京泉』本社ビルがある。

和菓子屋と言っても、株式を上場し、世界中に支店を持つ会社だ。経営者と言われる人たちがいて、その他の事務をする人たちも当然いる。

『京泉』の本社ビルは、かなり大きな自社ビルだった。

何気なく見ていると、建物の前に車が横付けされた。
運転手が降りてきて、後部座席の扉を開ける。
颯爽と降りてきた男の人に、ビルの中から綺麗な女性が近寄ってきて話しかけた。

タロちゃん?

タロちゃんに似ている気がするが、確信が持てない。

髪形が…

タロちゃんは、長髪を一つにキリッと結んでいるが、この男の人は短いからだ。少しウエーブがある髪をふわっとさせている。

こんな髪形でなければ、絶対タロちゃんだけど…

彩芽が戸惑っている間に、二人はビルの中に入っていった。

立ち去ることもできず、佇んでしまう。

今の人がタロちゃんだったとしたら…

タロちゃんは、本当に『京泉』の和菓子職人なんだろうか。

不安と怯えのような感情が彩芽の心を占領していった。

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