堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
『まつの』は日曜日ということもあって、お客様で賑わっていた。今の時期はぜんざいを頼む人が圧倒的に多い。
忙しそうにぜんざいを運ぶすみれちゃんが、「彩芽さん!お久しぶりです」と声をかけてくれた。
「忙しい時間にごめんね」
「全然大丈夫ですよ。トキさん、奥で待ってます」
フクフクとした笑顔。
元々、すみれちゃんは祖母にどことなく似ていたが、最近すごく似てきた気がする。
作業場を通るときに、「おじいちゃん、彩芽来たよー」と声をかける。
祖父は椅子に座り、ぜんざいに入れるお餅を焼いていた。
「おお、お疲れさん」
「おじいちゃん、腰の具合どう?」
祖父は、七輪にかがみこむようにしていた腰をグンと伸ばす。
「菊ちゃんがいるから、楽なこっちゃ」
祖父は二ヵ月ほど前にぎっくり腰をやり、それからは休み休み仕事をしている。好々爺という風情が漂う祖父は、ゆっくりと焼餅をひっくり返した。
「おじいちゃんのこと、よろしくお願いします」と菊ちゃんに頭を下げ、母屋に入る。
「おばあちゃん、彩芽だよー」
「ああ、彩芽ちゃん。お休みのところ悪いわね」
祖母は、今日も笑顔で出迎えてくれた。
珍しく割烹着を脱いで、外出の装いをしている。
「どこか行くの?」
「まあ、そこに座って」
意外なことを言われて少しためらう。
「別に怒ったりしないから、大丈夫」
祖母はクスっと笑った。
「おばあちゃんにお説教されたことなんて一度もないから」
彩芽も笑いながら、ちゃぶ台の前に座った。