堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

「じゃあ、さっそく出かけましょ」
祖母は、よっこらしょと腰を上げた。

「え?どこに?」

「いわくらさん」

すみれちゃんが用意してくれていたおはぎの箱を持ち、ほらほらと追い立てられるように『いわくら』に向かう。

「え?なに?どういうこと?おはぎの配達?」
アタフタしている間に、お店に着いた。

祖母は臆することなく、お店の扉を開ける。
「こんにちは。遅くなってごめんなさい」

お店の奥から、若旦那の奥様、若女将の志乃ちゃんが出てきた。

「いらっしゃいませ、トキさん、彩芽ちゃん。フフフ、いつもと逆ですね」

志乃ちゃんは『まつの』の常連さんだ。彩芽が店に立っていたときもしょっちゅう来てくれていた。年が同じということもあって、友だちのような間柄なのだ。
戸惑う彩芽は、思い出したようにおはぎの箱を渡す。

「これの配達?」

ハハハと笑いながら、若旦那が奥から出てきた。

「さすがにおはぎの配達はないやろ。今日は、二人の着物をあつらえるように頼まれてる。『京泉』から」

「え!?」

志乃ちゃんに、さあさあと背中を押されて奥に向かう。
そこには『いわくら』の女将さんがいて「お待ちしておりました。こっちはやる気満々ですよ!」と待ち構えていた。

彩芽は訳がわからぬまま、ああでもない、こうでもないと着物の反物をあてられる。
隣の祖母も同じ状態だ。

祖母の着物は、女将さんがある程度見つくろっていたらしい。

高級正絹の色留袖、帯は西陣織の物だ。

「今回はトキさんが主役やから。盛大にいかせてもらいます!」

彩芽は、志乃ちゃんイチオシの薄桃色の訪問着、帯は祖母と同じく西陣織のものに決まった。

「振袖にすると結婚すると着れなくなるから。彩芽ちゃんはすぐに着れなくなりそうやし。フフフ」ということらしい。

「今から急いで仕立てに出すので、パーティー当日はここで着付けて一緒に行こう。俺と志乃も招待されてるから」

若旦那が初めから決まっていたかのように言った。

目が回りそうな勢いで物事が進んでいくが、二人分の着物と帯、一体いくらすることやら…

「あの、お金…」

女将さんが声をたてて笑った。
「彩芽ちゃんは何も気にせんでよろし。全部任しとけばいいのよ」

若旦那も、「これくらい『京泉』には痛くもかゆくもないから大丈夫」と笑う。

おそらく、何十万、いやもう一桁上か?
彩芽には想像もつかなくて、めまいがした。

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