堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

*◇*◇*

明日はついに、『京泉』のパーティーの日だ。

何かの拍子にふっとそのことが頭をよぎり、今日は集中するのが難しかった。でもなんとか30分ほどの残業で済み、彩芽は安堵の吐息をついた。

「美鈴さんと彩芽さん、少しいいですか?」

終業後、三人の仕事がちょうど片付いたタイミングで百合ちゃんが声をかけてきた。

「どうかした?」
珍しいことなので、美鈴さんが心配そうな顔をする。

「仕事の話じゃないんです。四月からの話が明日解禁になるので、お二人には直接話しておきたくて」
百合ちゃんがはにかむように言った。

「実は、私、結婚することになったんです。お相手は『京泉』の息子さんで、いわゆる政略結婚です」

「え!そうなの?」
美鈴さんが、驚きの声をあげた。

「『カフェ・ド・イリス』を始めるにあたって、親族経営にした方がいいだろうということになったみたいです。ちょうど、『京泉』には未婚の息子さんがいるし、年はちょっと離れているんですが、私ならまだ釣り合いが取れるからということで」

「政略結婚って…。百合ちゃんはそれでいいの?まだ23歳なのに」
美鈴さんが気遣うように聞いた。

「はい。お相手の方から言われたんです。結婚した後は、一緒に『カフェ・ド・イリス』の仕事をしてほしい、二人で新しいことに挑戦していこうって。嬉しかった。必要とされてるんだなって思えて。それに、その方のことは昔からよく知ってるんです。かっこいいお兄ちゃんだなってずっと思っていたので」

初恋みたいなものです、と百合ちゃんは恥ずかしそうに言った。


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