堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
車を呼んで会場に向かう。
車中で、彩芽は初めてタロちゃんと会ったときのことを、思い出していた。
タロちゃんが初めて『まつの』に来たとき、武士の討ち入りかと思った。エイヤっと切りかかってきそうな雰囲気だったし。
今の彩芽は自分からバッサリと切られに行くわけだが、最後まで凛々しくいこうと覚悟を決めた。
彩芽は一人でも大丈夫なのだと安心してもらいたい。
会場は、京都で一番大きなホテル。『京都 泉ホテル』だ。その中でも、一番大きな会場を使うみたいだが、既に多くの人がいた。
受付で招待状を渡すと、「松野様!」と最敬礼される。ははーっと声が聞こえそうに深々と頭を下げられ、祖母は生き神様にでもなったような扱いを受けていた。
「お時間になりましたらお迎えに上がりますので、それまでゆっくりとおくつろぎください」
会場とは別の待機部屋が用意されているようだ。若旦那と志乃ちゃんとは受付で別れ、彩芽は祖母と別室に移った。
待機部屋には、ゆったりと座れるソファーがあり、ありとあらゆる飲み物が用意されている。
ブラックスーツの男性が、彩芽たちのお世話係のようで、「飲み物はいかがですか?」「何か召し上がりますか?」とあれこれと世話を焼いてくれる。
「おばあちゃん、神様みたいに扱われてるよ」コソコソと囁くと、
「死ぬ前に神様になっちゃったら、死んだ後はどうなるんだろうねぇ」
祖母が心配そうに返してきた。