堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
タロちゃんが彩芽の前に来た。
「彩芽さん…」
タロちゃんの目が優しく細められる。
彩芽は背筋を伸ばし、覚悟を決めて口を開いた。
「この度は、金賞受賞おめでとうございます。祖母にも過分な名誉をいただき、深く感謝しております」
深々と頭を下げてからゆっくりと上げた。
タロちゃんの目をちゃんと正面から見る。これでも秘書の端くれ。感情を押し殺し、ビジネスライクに徹する。
タロちゃんは眉をクッとひそめた。
「今までの礼儀知らずな振る舞いの数々を深く反省しております。二度といたしませんので、何卒ご容赦ください」
「…彩芽」
タロちゃんが何か言いかけたところで、この前本社ビルの前で見た、綺麗な女性が呼びに来た。
「副社長、お時間です」
タロちゃんは仕方なさそうに「わかった」と言い、「後で話がしたい。話はその時に」と言い残して去っていった。
「いえ!私は…」
彩芽が慌てて断ろうとしたが、もうタロちゃんはいない。
百合ちゃんもこの後挨拶があるらしく、慌ただしく去っていった。
彩芽は肩でほーっと息をした。
タロちゃんの優しく細められた目。あの目を見たらわかる。
タロちゃんは、やっぱり悪気はなかったんだ。
また、目の奥がじわっと温かくなった。涙は涸れ果てたはずなのに、湧き水のように湧いて出る。
彩芽はもう一度パチパチと目を瞬きさせた。
彩芽の想いは届いたのだろうか。
きちんと線引きをしてみせたのだけど…
『後で話がしたい。話はその時に』
残念ながら、伝わってないらしい。
百合ちゃんがいたのに、なんてこと。彩芽はがっくりと項垂れた。