堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
「み、御影副社長…」
「松野さん、こんにちは」
ヒョウのような目を細めて、御影副社長は彩芽を見た。
思わず後ろに後ずさる。
「せ、先日は失礼なことをして、申し訳ありませんでした」
彩芽が後ろに下がった分を、御影副社長は詰めてくる。
「いや。高尚なご意見、痛み入りました」
口では丁寧なことを言いながら、間合いを詰めてくるのが腹立たしい。慇懃無礼としか言いようがない御影副社長の態度に、彩芽は負けじとキッと見返した。
「何か御用でしょうか」
「いいですね、その目。気の強い女性は好きですよ」
不敵に微笑みながら、御影副社長はさらに近づいてきた。どんどん追い詰められて、ついには壁にぶち当たる。
「あなたは『十喜餡』考案者、松野十喜子さんの孫なんですね。実に面白い」
「それが何か」
本当にヒョウが狩りをしているようだ。怯むまいと思っても、彩芽は獲物になったような気がした。
「外見は清楚で美しく大人しそうに見えるが、言うべき時にはハッキリと意見する。経営者の妻としての素質は充分です。しかも『十喜餡』考案者の孫となれば、反対されることもなさそうだ」
手が伸ばされ、彩芽の顎の下に添えられる。
「どうです?私の妻になりませんか?」