堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
「残念ながら、彩芽はもう俺のものと決まってる」
御影副社長の手がパシッと払いのけられ、彩芽は強く手を引かれてタロちゃんの腕の中に飛び込む形になった。
「悪いな慧。他を当たってくれ」
タロちゃんは子どものように彩芽を抱き上げ、その場を立ち去った。
「ちょっ、降ろして!」
足をバタバタさせても、力強く抱きかかえられているので抵抗できない。
「後で話そうって言ったやろ」
不機嫌そうにタロちゃんは言った。
「承諾した覚えなんてないっ!」
『京泉』のパーティーの後だ。ロビーにいる人たちは、何事かと目を丸くしている。
「岩倉、悪いがトキさんのことを頼む」
「あぁ、任しとけ」
ハッと振り返ると、全員が勢ぞろいしていた。
「お、おばあちゃん…」
手を伸ばして助けを求めたが、祖母は「あら!私も昔、そんな風におじいちゃんに連れていかれたことがあるわ」と頬に手を添えて照れている。
吉木さんは、ハイ!と手をあげて、
「私も経験あり。具合が悪いフリをすると、恥ずかしさも少しはましになるわよ」
と、真面目な顔でありがたいのかどうか、よくわからないアドバイスをしてくれた。
「えー。私はされたことない」
志乃さんが残念そうに言うと、若旦那は「いつでもしてやる」と頭を撫でていた。
ダメだ、この集団…
「じゃあ、後のことは頼む」
タロちゃんはそう言い残し、彩芽を抱いたままエレベーターホールに向かった。
みんなに「頑張って!」と手を振られ、しょうがないので吉木さんのアドバイス通りに具合が悪いフリをする。
周囲の人の『大丈夫?』という気づかわし気な視線が居たたまれなかった。