さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
「……それじゃ、思い出したいことは?」
「思い出したい、こと?」

 ホタルの大きな目が瞬きもせず、一心に透を見ている。ホタルの瞳は髪や肌と同じく、やや色素の薄い透き通った榛色をしていた。

「大切だったはずなのに、なぜかぼんやりとしてしまっている記憶。忘れたくなかったのに、忘れてしまっている何か」

 温度の感じられない視線に、一瞬背筋が冷える。

 まるで歌っているかのごとくひと息に話す少女の高い声に、得体の知れない不安を感じた。
 この少女はいったい……?
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