さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた





 ――思い出したいこと。

 それは、ある。この十五年間、ずっと心に引っかかっている少年時代のある夏の出来事。

 透の十歳のころの記憶には、欠落があった。

 夏休み。
 祖母の家。埃の匂いのする古い骨董品。
 涼風に揺れる風鈴。昔ながらのアルマイトのやかんで煮出した麦茶。
 よく一緒に遊んだ近所の女の子。

 ……近所? その子は本当に近所の子だったのだろうか。




< 14 / 44 >

この作品をシェア

pagetop