さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
冷えた炭酸水の泡がはじけて、ピチピチと涼しげな音を立てた。水滴のついたグラスを、乾いた夏の風がかすめていく。
梅雨が明け、いよいよ本格的な夏が来た。
標高二千五百メートルの高山のふもとにあるこの古城市は、七月の午後でも空気が清々しい。その上、築百年近い古家の店舗は風通しもよく、これまで七月にクーラーの必要性を感じたことはない。
「いらっしゃいませ」
二人連れの観光客が開けっ放しの扉から入ってきたのを、透は年代物のレジカウンターの裏の椅子に座ったまま出迎えた。
アンティークショップと言えば聞こえはいいが、なんということもない土産物屋兼古道具屋だ。礼儀を気にするほどかしこまった店でもない。