さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 昨夜のことだ。
 古い台帳のメモに書かれていた携帯に電話すると、意外なことにその番号は生きていた。

『夕凪杏子さんですか?』
『……どちら様でしょうか』

 しばらく呼出音が鳴ってから、不審そうに電話に出たのは落ち着いた声の大人の女性だった。

『古城市にございます、ほたるび骨董店の夏越と申します』

 幸い夕凪杏子はほたるび骨董店のことを覚えていたようで、写真立てとその中に入っていたはずの写真について尋ねたいという透の話を聞き、すぐに会ってもらえることになった。

『喫茶 茉莉花』は杏子が東京で働いている店だ。

「ごめんください」

 ホタルとともにドアを開けると、カロンカロンとカウベルの澄んだ金属音が響く。
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