さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 色とりどりのリキュールの瓶が並んだカウンターと、テーブル席が三つあるだけの狭い店だ。コーヒーの芳香が席の間を漂っていた。

 カウンターの向こうにいた五十代くらいの小綺麗な女性が、目を見張った。

「……透くん?」
「え? あの……」
「やっぱり透くんよね。骨董店の夏越さんのところのお孫さん。お店を継いだのね」

 知り合い、ではないと思う。幼いころの記憶を探っても覚えがない。……誰だ?
 杏子は少し寂しそうに笑って、テーブル席を指し示した。

「まぁ、とにかく座って。遠いところをわざわざ来てもらってごめんなさい。お店、わたししかいないから休めなくて」
「いいえ、こちらが無理にお願いしたことですから」
「アイスコーヒーでいいかしら」
「はい。……あと、なんにする?」

 横に立っているホタルに何か飲みたいものがないか聞くが、ホタルは何も答えない。いつもの表情の乏しい顔で杏子をじいっと見つめているだけだ。

「えーと、じゃあ、クリームソーダもお願いします」
「クリームソーダ?」

 とりあえず子供が好きそうなものを頼んでみる。
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