さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 きょとんとする杏子に、大人向けの喫茶店のメニューにはクリームソーダはないのかもしれないと思い至って、透は慌てて注文を変えようとした。

「あ、えーと、オレンジジュースはありますか」
「大丈夫よ。少し待っててね」

 しばらくしてから杏子がカウンターから出てきて、アイスコーヒーとクリームソーダを透の前に並べた。クリームソーダのグラスを、隣に座ったホタルの前に滑らせる。

 きっと杏子の性質が表れているのだろう。丁寧に作られたことのわかる、美しいクリームソーダだった。
 透明な氷がぎっしり詰まったグラスに夏空のような色の青い炭酸水がそそがれ、その上にディッシャーですくった半球形のバニラのアイスクリームと、真っ赤なサクランボがのっている。

 まじまじとクリームソーダを見る透に、母親くらいの年齢の杏子は穏やかに微笑んだ。

「それにしても、透くんは変わらないわね。大きくなったけど、子供のころの面影が残ってる」
「ええと、僕のことをご存知なんですか?」
「……そうね……」

 杏子は何かをためらって、言おうとした言葉を唇の中に閉じ込めた。
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