さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 隣に座るホタルを見る。

 そっくりだ。

 蛍、なのか?
 きみが、蛍なのか?

 ホタルの前に置かれたクリームソーダのアイスクリームが溶けて、グラスの外にあふれてしまっている。夏空のように美しかったクリームソーダが、混沌とした青味泥と化していた。

 ホタルはクリームソーダが嫌いなのだろうか。

 そんな場合ではないのに、くだらない疑問が湧いてくる。
 子供はアイスクリームが好きだと思っていた。少なくとも、少年時代の自分にとってクリームソーダは特別な飲み物だったし、蛍も好きだったはずだ。

「いや、クリームソーダだけじゃない」

 ホタルは、好きだと言った麦茶も飲まなかった。
 それに……思い出せ。新幹線の中で、暑い陽射しの下で、ホタルは何か飲み食いしたか?

 透は寄る辺ない子供のように不安になった。

 昨日から、ホタルがものを口にしているところを一度も見ていない。
 ほんの二日の付き合いだ。ホタルはそういう質なのかもしれない。不思議はないのかもしれないけれど。

 ホタルは。



 きみは……何者なんだ?




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