さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 透はそれほど活発な子供ではなく、これまであまり羽目を外すことはなかった。でも、その時は直前に読んでいた冒険小説の影響も残っていて、常よりも心が沸き立っていた。

 しかも、隣には蛍がいる。少年らしい純情さで表には出さなかったけれど、ひそかに憧れ、可愛いと思っている女の子だ。
 少しは頼りがいのあるところを見せたくて、透は蛍の手を引いて川の流れの急なところに歩いていった。

『ほら、凄い。足が持っていかれそうでおもしろいよ。……うわっ』

 突然深みにはまった。
 それほど水深があるわけではない。ただ膝ほどの深さでも一度転んでしまうと、速い流れに巻き込まれて立ち上がることができない。

『透!』

 蛍の声がした。つないでいた手はいつの間にか離れている。渦巻く水の塊が次から次へと襲ってきて、息ができない。

『透! 透!』

 もう駄目だ……!

 透が死を覚悟した時、白い小さな手が透の腕をつかんだ。

 ――蛍!

 無我夢中でその手にすがる。細い少女の腕を支点にして浅瀬に這い上がる。

『はぁっ、はぁっ、はぁっ』
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