さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
少女の体は、ほんの二百メートル下流で発見された。
魂の抜けた体だけが。
まだ幼い少女の葬式は悲嘆の声に覆われていた。
憔悴した父親、慟哭する母親、虚空を見つめたまま動かない祖父母。蛍の住んでいた地元から離れていたため参列者は少なかったが、その場にいる者はみな嗚咽していた。
祖母と母に連れられた透が入っていくと、蛍の母は半狂乱になって透につかみかかり、周囲に止められると泣きじゃくりながら透を罵りつづけた。
僕が。
――殺した。
自分のせいで、彼女は死んだのだ。
のちに少女の事故が原因で、蛍の両親は離婚したと聞いた。
蛍。
蛍の命、未来、家族。
すべて、自分が奪った。何もかもが透のせいでなくなってしまった。ついさっきまであった温かい微笑みが、浮き立つ気持ちが、永遠に手の届かないものになってしまったのだ。
あまりの罪の重さを背負い切れずに、透の記憶はぽっかりと失われた。
ほたるび骨董店を去り母と暮らす家に戻ると、その夏のことはぼうっと霞む夢の中の出来事のように次第に消えていった。
かすかな夕虹が、夏の終わりを彩っていた。