さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた


「まさか、そんな……」

 新幹線の自由席で、透は自分の犯した罪に震えていた。
 自分が、蛍を……。
 おかしくなりそうだった。いや、既におかしくなっているのかもしれない。自分が正気なのかどうか、もう判然としない。

 昨日突然ほたるび骨董店に現れた、蛍と同じ名前の少女。
 夕凪杏子が差し出した写真に写っていた蛍と、同じ顔の少女。

 あのホタルは、蛍なのか。
 なぜ今、透の前に姿を見せたのか。
 そもそもホタルは本当に存在していたのか。
 会社を辞めさせられた過程での重度のストレスと、自ら封印した過去の記憶から漏れ出す罪悪感とで、疲れ果てた脳が作り出した幻影ではないのか。

 振り返ってみれば、妙なところはたくさんあった。
 杏子が蛍の母親なのだとしたら、おそらくもう一度会いたいと焦がれつづけた愛娘と同じ年ごろの、よく似た顔立ちをした少女が目の前にいるのに、なぜ何も言わなかったのか。杏子はホタルのほうに視線すら向けなかったのだ。

 違和感の源はまだあった。
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