さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 クリームソーダを頼んだ時、杏子は驚いた顔をしていた。あれは透がアイスコーヒーとクリームソーダを一人で頼んだと思ったからではないのだろうか。
 そして、杏子は二つのグラスを両方とも透の前に置いた。

 杏子には、ホタルの姿が見えていなかったのではないのか。

「……SNS」

 ふと昨日ホタルが店にいた時に、女性客が写真を撮っていたことを思い出した。

『写真、SNSにアップするので、見てください』
『素敵なお店だったって宣伝しておきます』

 彼女達はそんなふうに言っていた気がする。

 透はスマートフォンをボトムスのポケットから取り出して、冷たく痺れた指でSNSの投稿を検索した。

「古城市……ほたるび骨董店……」

 二つ目のSNSで、それらしき投稿を見つけた。
 何枚かの写真が載せられている。若い女性が昭和初期の階段箪笥の前で自撮りしている写真に、天井の梁に掛けられたつるし雛を指さしている写真。
 そして、三枚目の写真に、透が写り込んでいた。困ったような顔で微笑む透。年代物のレジカウンターに、炭酸水を飲み干して空っぽになったグラス。

 そこに、少女はいなかった。
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