さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
きみは僕に「 」と言った
「とおる」
少女の声は不自然にかすれていた。
真夏の午後だというのに、なぜか彼女のまわりは物の影が薄い。並んでいる車や駐車場のフェンス、街路樹や電柱が強い光にくっきりと浮かび上がり、存在感のある影を落としている。その中で、少女だけがほのかに霞んでいるように思える。
「と、おる……」
サザッ、サザッと電気的なノイズのような音がする。
どこかで遠雷が鳴っているのかもしれない。あるいは、透にしか聞こえない耳鳴りなのかも。
透が声を出そうとしたその刹那、周囲を暗闇が覆った。
――サザッ、サザーッ、サザーッ。
アスファルトがたちまち黒く濡れていく。
夕立だ。
「……ホタル」
焦げたアスファルトが急速に冷やされ、埃くさい熱気が舞い上がる。
少女は能面のような顔のまま、一種異様なたどたどしさで言葉を発した。
「かえら、なく、ちゃ」
「どこへ帰るの……?」