さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
「…………」

 口を閉じると、本当に人形か立体映像みたいだ。透はまた泣きそうになって、必死に少女に話しかけた。

「お願いだ、行かないでくれ。もう少しだけでいいから、僕のそばにいてほしいんだ」

 車の窓から雨が吹き込んできて、肩を濡らす。その不快に温い水滴も、まったく気にならない。



 ――サザッ、サザザーッ。



「もう、じかんなの」

 激しい音を立てて、雨が降る。

「僕は……僕は」

 少女が絞り出すような、キシキシとした声でささやく。



「なかなくて、いイん、ダよ」



 透の頬を、目尻からあふれた涙が伝っていた。

「……ごめん……ごめんなさい。僕のせいで……。蛍を、もっと早くきみを探していれば」

 雨がやまない。

「とおルの、せイじゃない」

 涙が止まらない。

「ずっときみに謝りたかった。あの日、見捨てて帰ってごめん。ずっと……忘れていて、ごめん」

 蛍。

「カワに、さそったノは、わたし」

 ホタル。

「とおルを、たすケタかったのも、ワたシ」

 ほたる。

「とオる、ガ、ぶじデ、ヨカ……タ」

 僕は。





「きみが大好きだった。本当に好きだったんだ」




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