さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 可愛らしい女の子だ。
 十歳くらいだろうか。柔らかそうな栗色の髪に、色白の肌、整った目鼻立ち。子役のモデルのようだ。

「親御さんのお使い?」

 透は怪訝に思いつつ少女に声をかけた。もう小学校は夏休みだったかな?

 小学生の下校時間にはまだ少し早い時刻だった。ランドセルや荷物も持っていないし、そもそもこの骨董店には、子供が遊びに来ても楽しめる物は何もない。

 少女の背後では、先ほどの女性客がこちらにスマートフォンのカメラを向けていた。透が小さく笑って頭を下げると、「……くんみたいね」「あの俳優さんに似てるよね」と彼女達は興奮したような声を抑えて、ひそひそとささやきあっている。

 少女はなんの物音も聞こえていないみたいに、透を静かに見つめていた。

「どうしたの? うちの店に、何か用があるのかな?」

 透が辛抱強く話しかけると、少女が小さな声でつぶやいた。

「写真を探しているの」
「写真?」
「うん……。そのフォトフレームに入っていた写真」

 細い指が透の後ろの棚を指さす。
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