さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 レジの奥には、古い額縁や写真立てが並べられていた。木工職人が彫った一点物の額縁から、古布の入った手ぬぐい額縁、ちょっとレトロな昭和時代の写真立てまで玉石混交の品々だ。

 少女が言っているのは、比較的新しい貝殻細工のもののようだった。中には色褪せて黄ばんだ紙だけが挟まっている。

「写真はないよ。きみはフォトフレームが欲しいの?」
「ううん、いらない。そこにあった写真が欲しいの」
「困ったなぁ。写真は元からなかったはずだよ」
「ずっと探してるの。大事な写真なの」

 表情の乏しかった少女の顔に、初めて焦りのような色が見えた。眉を八の字にして、高い声も心なしか早口になっている。
 少し可哀想になって、透は少女にうなずいた。

「じゃあ、ちょっと待ってね。台帳を見てみるから」
「……ありがとう」

 商品番号を確認し、席を立つ。
 店の裏の倉庫には、祖母が記した古物の売買の記録がずらりと並んでいた。祖母はパソコンなど使えなかったので、すべて手書きだ。

 祖母は先日引退したけれどまだまだ健在で、今は店を営んでいたころには行けなかった長期の旅行に出かけている。
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