さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
 今年になって透が東京の会社を辞めようと考えていることを知り、ほたるび骨董店を継がないかと誘ってきたのは祖母だ。自分のような消極的な男に自営業ができるかどうか……自信はなかったが、幼いころから世話になってきた祖母に少しは恩返しがしたかった。

 透は商品番号と照らし合わせて該当の台帳を抜き出すと、店に戻った。栗色の髪の少女は先ほどと寸分違わず同じ姿で佇んでいた。
 いつも店の中を流れている高原の風は相変わらずやんだままで、額に少し汗が浮かぶ。

「おまたせ。今、調べてみるからね」

 こくりとうなずくと、少女はレジ台の上のグラスをじっと見つめた。炭酸水を飲み終えたあと、置きっぱなしにしていた。グラスは汗をかいているが、祖母愛用の端切れのコースターが水滴を吸い取ってくれている。

 不思議な雰囲気のある女の子だった。
 子供らしい日焼けあとのない透けるような白い肌には、汗ひとつ浮いていない。大きな二重の目は幾分異国の血を感じさせた。
< 7 / 44 >

この作品をシェア

pagetop