さよならとつぶやいて、きみは夏空に消えた
珍しい名字だけれど、それだけではなくて、何か記憶の奥底から違和感が湧き上がってくるような……。
「ホタル」
「え?」
「わたし、ホタルって言うの」
――ホタル。
蛍、か……。
『……わたし、蛍って言うの』
『ばあちゃんの店と同じ名前だ』
思い出の中の少女はかすかに笑っていた。
けれど、色褪せた写真のように細部がかすれてしまっていて、少女の顔がわからない。
『いのち短し恋せよオトメ』
『何それ?』
『ママが言ってた。どうして蛍って名前を付けたのって聞いた時』
『ふーん……』
蛍。
初夏の宵、一瞬の命を燃やして消えていく小さな虫。歳時記によると夏の季語でもある。
螢。蛍。ほたる。ホタル。
そして、それは。
小学生のころ、透が祖母の家に遊びに来ていた、夏休みの間だけの幼馴染みと同じ名前。
あんなに大好きだったのになぜか顔も思い出せない、初恋の少女の名だった。
「ホタル」
「え?」
「わたし、ホタルって言うの」
――ホタル。
蛍、か……。
『……わたし、蛍って言うの』
『ばあちゃんの店と同じ名前だ』
思い出の中の少女はかすかに笑っていた。
けれど、色褪せた写真のように細部がかすれてしまっていて、少女の顔がわからない。
『いのち短し恋せよオトメ』
『何それ?』
『ママが言ってた。どうして蛍って名前を付けたのって聞いた時』
『ふーん……』
蛍。
初夏の宵、一瞬の命を燃やして消えていく小さな虫。歳時記によると夏の季語でもある。
螢。蛍。ほたる。ホタル。
そして、それは。
小学生のころ、透が祖母の家に遊びに来ていた、夏休みの間だけの幼馴染みと同じ名前。
あんなに大好きだったのになぜか顔も思い出せない、初恋の少女の名だった。