桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「ねぇねぇ、名前はなんて言うの?」
その子は、笑顔を浮かべて私に訊ねる。
「ふ、双葉 蒼です」
あまりの突然でしどろもどろになってしまったが、女の子は気にすることなく明るい笑顔を浮かべたまま言った。
「蒼ちゃんね! 私は、佐々木 美菜(ささき みな)。好きなように呼んでいいよ」
「う、うん」
今まで、呼び捨てやあだ名で呼んだことがない私は、彼女のことを美菜ちゃんと呼ぶことにした。
「それでね、こっちが私の彼氏、月城 琉輝(つきしろ りゅうき)。まぁ、うるさいだけが取り柄なんだけどね」
そう言って戯けて紹介する美菜ちゃんに、すかさず琉輝くんがつっこんだ。
「ちょっと美菜! それひどくね⁉︎」
「いいじゃん! 本当のことだもん!」
「本当のことって、お前な‥‥‥!」
今度は、ケンカとは言いがたいイチャコラを繰り広げる美菜ちゃんと琉輝くんに呆気にとられる私。
そんな中、「この2人とは、小さい頃からの幼馴染みなんだ」と陽向くんが説明してくれた。
だから、こんなにも仲がいいのか。
「まぁ、琉輝は昔からうるさいけど」
「陽向も一緒になって言うなよ!」
「さっきのお返しだよ」
なんて、陽向くんは笑いながら返すもんだから、琉輝くんはますます頬を膨らませる。
「もぅ〜! 蒼ちゃん、助けて〜!」
急に振られて困ってしまった。
これはどう助ければ良いのだろう?
「えっ、えっと‥‥‥」
考えて見るけれど、思いつかない。
長年まともに人とコミュニケーションをとってきてないせいだろうか。
そう言葉に詰まらせていると「琉輝、蒼を困らせないでよ」と陽向くん。
琉輝くんを助けるどころか、逆に陽向くんに助けられてしまった。
「ごめんね! 蒼ちゃん」
「う、ううん」
琉輝くん、なにも謝ることなんてないのに。
私が助けられなかったことがいけなかったんだから。
そうこう考えているうちに突然、美菜ちゃんがなにかを閃いたのか手を叩いた。