桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「‥‥‥っ!」
そこで、目が覚めた。
右手を見つめるけど、なにも温もりがなくただ寂しさだけが残っていた。
ぽろぽろとなにかが頬を伝う。
触ってみると、涙で濡れていた。
あの夢を見たからなのか、胸がギュッと締め付けられて朝から落ち込んだ気分。
「蒼、どうした?」
登校中、隣を歩く陽向が心配そうな顔で私を覗き込む。
「朝から元気ないようだけど、イヤなことでもあった?」
私の変化に陽向はすぐに気づく。
「別に大したことじゃないんだけど、また夢を見たの」
「前に話していた夢?」
「う〜ん、似てるんだけど少し違うの」
「それってどんな感じだったの?」
「えっとね、暗闇の中で誰かが私の右手を握ってて、男の子の声が聞こえるところまでは一緒なんだ」
私の夢の話を陽向は真剣に聞いてくれる。
「でも、今日、見た夢はその子は必死に私の名前呼んでなくて、切ない声で『また逢おうね』ってそう約束だけして離れていってしまう夢で‥‥‥それがなんだか悲しくて、切ない気持ちになったの」
「‥‥‥そうだったんだね」
陽向は、少し悲しい顔をしたあと私に微笑みかけてくれた。
「でも、もう悲しまなくて大丈夫だよ。俺がついてるから」
そう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。
それが嬉しくて、悲しさなんてどこかに吹き飛んだ。
「ありがとう、陽向」
きみは、いつだって私を笑顔へと変えてくれる。
陽向の優しさに今日もまた救われた。