桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
それから放課後になって帰り支度をするが、気分は憂鬱のまま。
「蒼、なにかあった?」
隣で陽向が心配そうに訊ねる。
「‥‥‥なにもないよ」
彼の問いに、私はぶっきらぼうに返した。
「うそ」
「うそじゃない」
「じゃあ、なんで、さっきからこっちを見てくれないの?」
そう核心を突かれ、ギクリと体が反応する。
声からするに陽向は、私を責めているんじゃなくて、悲しんでいるって分かった。
陽向が私に一歩近寄ってきて、私は逃げるように一歩後退りをした。
今は、陽向と向き合いたくない。
しかし、次の瞬間には頬に手を添えられ、向き合う形になってしまった。
目が合ってしまい、慌てて視線を逸らす。
「蒼、正直に話して。じゃないと、ずっと苦しいままだよ?」
そう言ってくれるけど、陽向に正直に話せるわけないじゃん。
陽向が好きだって。
言ったら、きっと陽向を困らせるから。
好きな人がいる人を好きになっても迷惑なだけなの分かってるから。
だから、もうこれ以上近づいたらダメ。
距離を置かなきゃ‥‥‥。
そう思った私は、頬に添えられてる陽向の手をそっと離した。
「蒼?」
陽向は驚いて私を見つめる。
私は下を向いたまま、ぽつりと呟いた。
「‥‥‥こういうの、好きな人にしかしちゃいけないんだよ」
陽向の好きな人が私だったら、どれほど良かっただろう。
もうどんなに願っても叶わない。
私は、すぐさまバッグを肩にかけると、この場から立ち去るように教室を飛び出した。