桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「蒼ちゃんのせいなんかじゃないよ。蒼ちゃんは、なにも悪くない。だから、自分を責めないで」
俺は、泣き崩れる蒼ちゃんを優しく包み込むように抱きしめた。
「‥‥‥私のせい、じゃないの?」
腕の中で、弱々しい蒼ちゃんの声が聞こえる。
「そうだよ。誰がなんと言おうと蒼ちゃんのせいじゃないよ。悪いのは、信号無視して突っ込んで来た車。だって俺、見てたから」
そう伝えると、蒼ちゃんはなにかを思い出したみたいで顔を上げた。
「じゃあ、さっきの声ってきみだったの?」
ーー『蒼ちゃん! 今すぐその場から離れて!』
きっと、蒼ちゃんが言っているさっきの声ってのはこのことだと思う。
「うん。蒼ちゃんをなんとしてでも助けたかったんだ」
結局は、間に合うこと出来なかったけど、“蒼ちゃんを助けたい”その一心だったことに変わりはない。
俺の背中に蒼ちゃんがゆっくりと腕を回してくれたことが分かった。
「ありがとう」
泣きながらも懸命にお礼を伝える蒼ちゃんをさらに強く抱きしめ頭を優しく撫でたその時‥‥‥。
ーービュンッ。
強い風が吹いて近くに咲いていた桜の花びらが舞い上がった。
ひらひらとピンク色の花びらが降る。
まるで、俺たちを明るく照らすかのように。
儚くて美しい景色だった。