桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
あの後、すぐに救急車がきて蒼ちゃんのお父さんは両親が勤めている近くの総合病院へと緊急搬送された。
そのあとを追うように、俺たち家族も総合病院へと向かった。
病院に着くなり、蒼ちゃんのお父さんは治療室へと運ばれたが、もう時すでに遅く天国へと旅立ってしまった‥‥‥。
それを知ったら蒼ちゃんは、また悲しんでしまう。
まだ小さいのに、その残酷な現実を受け止めきれるのだろうか?
あの時、泣き疲れてしまったのか気付くと俺の腕の中で気を失っていた蒼ちゃん。
右膝にできていた傷の手当ても終わり、病室で眠っている蒼ちゃんの右手をそっと握った。
扉の向こうで、すすり泣く声が微かに聞こえてくる。
俺の父さんが蒼ちゃんのお母さんに説明している。
しばらくして、ガラッと扉が開いた。
入ってきたのは、いつの間にか白衣姿の父さんと、ハンカチで目元をそっと拭う蒼ちゃんのお母さん。
「今日は、いろいろとありがとうございました」
蒼ちゃんのお母さんは、俺たちに向かって丁寧に頭を下げた。
「いえ。とんでもありません。こちらこそ、旦那様を助けられなくて本当に申し訳ございません」
俺の隣にいる母さんは、深く頭を下げる。
「‥‥‥もう、大丈夫ですから。最後の最後まで夫の手当てをして下さり、とても感謝しています」
まだ気持ちの整理なんてつかないはずなのに、蒼ちゃんのお母さんは俺たちにもう1度お礼の言葉を告げた。