桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「ねぇ、あなたのお名前は?」
「一ノ瀬 陽向です」
「陽向くんは、小学何年生?」
「3年生です」
そう伝えると、蒼ちゃんのお母さんが驚いたことが分かった。
「蒼と同じ学年だわ」
蒼ちゃんと同い年だと分かり俺も嬉しくなった。
「陽向くんは、この町に住んでるの?」
「はい。生まれてからずっとこの町に住んでいます」
そう伝えると、蒼ちゃんのお母さんはなぜか眉を少し下げた。
「‥‥‥そっか」
それ以上、蒼ちゃんのお母さんはなにも聞いてこなかった。
そこで話は終わってしまった。
「陽向、そろそろ帰ろっか」
本当は蒼ちゃんと別れたくないけど、母さんの言葉に小さく頷いた。
もう1度、眠っている蒼ちゃんの手を握る。
「蒼ちゃん」
呼び掛けても返事がないのは分かってる。
それでも、心のどこかで聞こえていることを信じて‥‥‥。
「また逢おうね」
そう約束した。
握っている手をそっと離す。
涙が出てきそうなのをぐっと堪えて病室を後にした。