桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
家に帰っても、蒼ちゃんのことが気がかりで一睡もできなかった。
次の日の朝、病院から帰ってきた父さんが俺に話をしてくれた。
あの後、蒼ちゃんは目が覚めて数時間後には無事退院したと。
それを聞いて、ひとまず安堵した。
そんな俺とは違い、父さんは暗い表情をしていた。
「蒼ちゃんが目覚めた後、ナースコールがなったんだ」
ナースコールって、なにかある時にしかならないはずじゃあ‥‥‥。
「駆けつけて蒼ちゃんのお母さんから話を聞いた。それで、蒼ちゃんと何度か話しているうちに、1つだけ分かったことがあるんだ」
「‥‥‥?」
次に、父さんの口からでた言葉は、俺に残酷な現実を突きつける言葉だった。
「蒼ちゃんは、お父さんを失ったショックにより事故直後の記憶がなくなっている」
ーー“事故直後の記憶”
それって、つまり‥‥‥。
「蒼ちゃんは、俺がいたということを忘れてるってこと⁉︎」
「そうだ」
父さんは、はっきりと断言した。
「なにか思い出させる方法はないの⁉︎」
昂る気持ちを抑えきれない。
「落ち着け、陽向」
宥めようとしてくれるけど、全然落ち着かない。
「陽向の気持ちよく分かるよ。でもな、無理に思い出させようとすると、かえって蒼ちゃんを傷つけてしまう可能性があるんだ。だから、このまま思い出せないままでいるのも1つの案なんだよ」
「そんなぁ‥‥‥」
俺は、ただただ項垂れるしかなかった。