桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
【蒼 side】
「蒼、待って。話がしたいんだ」
美菜のところで弁当を食べに行こうとする私を陽向が止めた。
ーー『もう、なにも聞きたくないよ! お願いだから、これ以上私に優しくしないで!』
そう伝えたはずなのに、なんで私に構おうとするの?
別に陽向と話すことなんてなにもない。
私は、目の前にいる陽向をスルーして美菜のところへ向かった。
「蒼、大丈夫だった?」
「うん。なんとか」
そう言って、美菜に苦笑いを向けた。
美菜の前の席の子の椅子を借りて、美菜と向き合うように弁当を広げた。
美菜と話すと、少し気持ちが落ち着く。
近くに陽向がいると胸が苦しくなるから。
だから、休憩の時とかは席が離れている美菜のもとにいつも行ってる。
それに、美菜にはことの成り行きを全部話してるから私の味方でいてくれるんだ。
「私もさ、今、陽向と絶賛ケンカ中なの」
「えっ‥‥‥?」
びっくりして思わず聞き返した。
2人ともケンカしなさそうなのに‥‥‥。
「この前、陽向が電話で蒼のこと聞いてきて、なんにも分かってない様子だったから私がガツンと言ったの。『蒼を傷つけるなんて最低だ』って。私も、陽向はてっきり蒼のこと好きだとばっかり思ってたから」
ーー『蒼、聞いて! 俺が好きなのは』
陽向が好きな人って、どう考えても“あの子”しかいない。
それにしても、私のせいで2人の関係を傷つけてしまった。
罪悪感が押し寄せる。
「いいから来いって!」
いきなり、大きな声がして何事かと振り返ってみると、琉輝くんが机にうつ伏せになっていた陽向の腕を掴んで引っ張っていた。
その様子を目で追っていると、陽向が教室を出ようとする時、私のほうを見た気がした。
目が合う前に、すぐさま私は視線を逸らした。