桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
【蒼 side】
美菜を引っ張って、帰り道をスタスタと歩く。
「怒らないでよ、蒼」
美菜はそう言うけど、そりゃ怒るよ。
陽向が美菜を泣かせたんだもん。
私の大事な友達を。
それに、陽向は幼馴染みなのに美菜を泣かせるなんて最低だよ‥‥‥。
「別に陽向に泣かされたわけじゃないよ」
「でも、泣いてたじゃん」
「あれは嬉しくて泣いてたの」
「嬉しくて?」
「うん。陽向の気持ちを知れて嬉しかったんだ」
‥‥‥陽向の気持ち?
「って、私のことはどうでもいいの。それより、蒼は琉輝となに話してたの?」
「‥‥‥陽向のことだよ」
「詳しく聞かせてよ」
なぜか興味津々で聞いてくる。
「うん、いいけど。琉輝くんがいうには、私と陽向は昔、出会ってるって伝えてくれたんだ。でも私、いろいろと思い返してみたけど陽向と出会ってるはずないんだよ」
「‥‥‥やっぱり、蒼は覚えてないんだね」
「えっ?」
「ううん。なんでもない」
美菜はそう誤魔化したけど、本当は聞こえてた。
私はなにかを忘れている。
さっきの琉輝くんの言葉。
ーー『辛いと思うけど思い出してよ。本当の“あの日の記憶”を』
‥‥‥あの日の記憶。
多分、それはきっと‥‥‥。
ーー『蒼ちゃんは、お父さんを失ったショックにより事故直後の記憶をなくしています』
あの日の空白の時間。
そこに、なにがあったの?
どうしても思い出したい。
思い出さなきゃいけない気がする。
大切な“なにか”をーー。