桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

* * *

「‥‥‥いちゃん」

声がする。

「蒼ちゃん! 蒼ちゃん!」

暗闇の中で、誰かが必死に私を呼ぶ声がする。

近くにいるはずなのに、いくら探してもきみの姿がどこにも見えない。

ねぇ、どこにいるの?

不安に押し潰れそうになったその時、右手になにやら温かい感触が伝わってきた。

ーー“ここにいるよ”

まるで、心の声がきみに通じたかのように。

安心した私はその手を握り返した。

「起きて、蒼ちゃん‼︎」

その子のありったけの叫び声。

「‥‥‥んっ」

重たい瞼をゆっくり開けると、私は硬くて冷たいアスファルトの上に横たわっていた。

目の前には、夕陽に照らされた少しブラウンかかった髪の男の子。

「良かった。目を覚ましてくれて」

きみは、私を見るなり安心した様子。

「‥‥‥?」

私は、一瞬なにが起きたのか分からなかったけど。

「そっか、私‥‥‥」

すぐにさっきの出来事を思い出した。

重たい体を起こそうとすると、きみは私の背中に手を当てて支えてくれた。

「‥‥‥っ」

途中、右足がじんじんと痛みだし思わず顔をしかめた。

よく見てみると、右膝に傷ができていて血が少し滲み出ていた。

「大丈夫? 痛くない?」

男の子が心配そうに尋ねる。

「‥‥‥う、うん。大丈夫だよ」

痛むけど、あまり心配させたくなくてそう返した。
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