桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

「‥‥‥蒼ちゃん。ごめんけど、陽向はまだ帰って来てないっておばさんがさっき教えてくれた」

「えっ‥‥‥」

家に帰ってるって思ったからここに来たのに、まだ帰って来てないの?

「俺もさ、陽向が好きなお菓子買って元気づけようとしたのに、あいつはどこにいるんだろうね?」

琉輝くんが言った通りだよ。

陽向は、今、どこにいるの?

なにをしているの?

落ち着け、私。

よく思い出すんだよ。

陽向と一緒に過ごした日々を。

それでいて、陽向が行きそうな場所を。

ーー『落ち込んだ時とかは、よくここに来るんだ』

「あっ!」

「って、蒼ちゃん?」

「あそこなら、いるかもしれない!」

「じゃあ、行っておいで。今の陽向を変えるのは、蒼ちゃんしかいないよ」

今度は、琉輝くんが応援してくれる。

「ありがとう、琉輝くん。私、頑張るよ」

「おう! 頑張っておいで」

琉輝くんは階段を使うからと手を振って見送ってくれた。

エレベーターのボタンを押すと、今度はすぐに来た。

それに乗って、扉が閉まるなり、一気に1階まで下りる。

乗っている間も、陽向に会いたくてうずうずして落ち着かない。

ロビーに着いてマンションを出ると、あの場所へと向かう。

走るたびに涙が零れ落ちてきて、すれ違う人がこっちを見ていたけど、涙を拭うことなく必死に駆け走る。

あの場所まで、もう少しだ。
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