桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「でも、どうしてあの時、私の名前知っていたの?」
「‥‥‥イルカショー」
「えっ?」
「水族館のイルカショー見てたんだ。イルカの触れ合いでステージに立ち、飼育員さんに名前を聞かれて答える女の子。それが、蒼だったんだ」
「そっか。見てたんだね」
あの時、観客席に陽向がいたのかと思うと、少しだけ恥ずかしい気持ちになった。
「それから、事故があった後も蒼を忘れられなかった。蒼のことばかり考えてた。次の日、病院から帰ってきた父さんから聞いたんだ。蒼は、『事故直後の記憶がなくなっている』って」
陽向にも伝わっていたんだ‥‥‥。
「正直、ショックだった。俺のこと覚えていないことに」
「ご、ごめん」
咄嗟に、口から謝りの言葉がでた。
「ううん。無理もないよ。あれは、誰が見てもショッキングな出来事だったから」
陽向は許してくれた。
「俺も事故の瞬間を間近で見てしまったから、背を向けたくなるのも事実だし。立ち直るまで、少し時間かかった。でも、そんな時、琉輝と美菜が支えてくれたおかげで、俺は自分らしさを取り戻した。俺がくよくよしてどうするって自分に何度も言い聞かせた。1番辛いはずなのは、蒼だって。お父さんを失くしてしまった蒼が、また自分を責めてしまっているんじゃないかって。1人で苦しんでいないかずっと心配で、いろんな人に蒼のこと訊ねたり、あちこちの小学校も探し回ったんだ。だけど、いくら探しても蒼の情報が得られなくて、中学になっても、なに1つなくて正直、挫けそうになったよ」
そう言って、陽向は苦笑いを浮かべた。
まさか、私が隣の県に住んでいたとはその時は思ってもみなかったのだろう。