桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「あっ」
放課後になり、帰りの支度を済ませていると、少し離れた場所にいた神崎さんと目が合った。
すぐに、目を逸らされてしまったけれど、私は神崎さんの元へ駆け寄った。
「あの、神崎さん。ちょっと、いいかな?」
呼び止めたのは、どうしてもお礼を伝えたいと思ったから。
神崎さんが少し頷いたのを見て、私たちは人気の少ない廊下に場所を移した。
「あの、神崎さんにお礼を伝えたかったの」
「お礼‥‥‥?」
「うん。この前のことで。私は、ずっと陽向と向き合うことから逃げてた。でも、逃げてばかりじゃダメだってことに気付かせてくれたのは神崎さんだよ。だから、凄く感謝してる。ありがとう、神崎さん」
お礼を伝えると、神崎さんは少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「‥‥‥別に、礼を言ってもらえるようなことしてないよ。あの時、むかついたからで今となっては、あんたに酷いこと言ったと思ってる。それに、以前、肩を突き飛ばしてごめん」
申し訳なさそうに眉を少し下げて謝る神崎さん。
正直、神崎さんと出会った頃はとても気が強い人だと思ったし、言い返せることもできなくて勝手に苦手意識をしてた。
だけど、はっきりものを言うところも私のためを思って言ってるって今では思えた。
それに、陰ながら気にかけてくれてたりして本当は優しい人なんだ。
「神崎さん、もういいよ。私だって、知らぬ間に神崎さんを傷つけていたから」
「‥‥‥なんで、そんなに優しいの? 一ノ瀬くんがあんたを好きな理由が分かる気がするよ」
「‥‥‥?」
ぼそりと言った神崎さんの言葉が上手く聞き取れずに首を傾げていると‥‥‥。
「あのさ、あんたのこと“蒼”って呼んでもいい?」
その言葉にびっくりして思わず目を見開いたけれど、すぐに笑顔になった。
「いいよ! じゃあ、私は“皐月”って呼んでもいいかな?」
「もちろん!」
そう言って、とびっきりの笑顔を私に向けてくれた。