桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「あのさ、蒼‥‥‥ずっと、言おうか迷ってたことがあるんだ」
ふと陽向はこんなことを言った。
「‥‥‥?」
「そのヘアピンのピンクを選んだ意味」
夏祭りと同様、髪を巻いて、いつか陽向がプレゼントしてくれたヘアピンをつけているのだけれど‥‥‥。
「可愛いからじゃないの?」
「それも、もちろんあるよ。けどね、蒼。7年前、出会った時に見た景色覚えてる? その時、蒼は泣いていて分からないかもしれないけど」
「えっ、待って。たしか、あの時‥‥‥桜が舞ってた!」
そう伝えると、陽向はこくりと頷く。
「あの時、見た景色が忘れられないんだ」
この白い雪のように、ピンク色の桜の花びらがひらひらと降っていた。
まるで、私たちを明るく照らすかのように儚くて美しい記憶。
「蒼とまた出会ったのも桜の季節。もしかしたら、桜が俺たちを運んでくれたのかもしれないって思ってる」
私は、今まで桜の季節が1番嫌いだった。
お父さんを失くした季節だったから。
でも、今は違う。
あの日があったからこそ、陽向に出会うことができた。
陽向に恋をすることができた。
今では、桜の季節が1番好きだと言える。