桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

陽向くんは私の前に来るなり、涙を拭う私の手を止めた。

その瞬間、目がばっちりと合った。

「‥‥‥っ」

「蒼、無理しないで。泣きたい時は、たくさん泣いていいんだよ」

手が離されたかと思うと、私の体はすっぽりと陽向くんの腕の中に収まってしまった。

いきなり過ぎて、状況がよく飲み込めない。

「ちょ、ちょっと。陽向くん?」

戸惑う私に、陽向くんは離さないとばかりさらに強く私を抱きしめる。

「蒼の全部、俺が受け止めるから」

そう言って、抱きしめたまま陽向くんは私の頭を優しく撫でてきて、ますます涙が止まらなくなってしまう。

1人でも大丈夫だと思っていたのに。

全然、大丈夫じゃなくて‥‥‥。

私は、こんなにも弱かったんだと気付いた。

心のどこかで、なにかが崩れていく音がする。

「蒼、今までずっと辛かったね。でも、もう1人で抱え苦しまなくていいよ」

どうして、陽向くんには私が辛い思いをしてきたことが分かるのだろう?

彼の優しい言葉とともに、鼻を掠めるのは甘い匂いがする柔軟剤の香り。

「蒼は1人じゃない。どんな時だって俺が傍にいるから。なにがあっても絶対に蒼を守るよ。だから、もう悲しまなくて大丈夫だよ。蒼」

ねぇ‥‥‥。

どうして、きみは泣いている私にこんなにも優しくしてくれるの?

それに、どうしてなぜか懐かしく感じるの?
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