桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「そんなことないよ」
と、陽向くんが言った。
「蒼は、幸せになっていいんだよ。誰にだって、幸せになるために生まれてきたんだから」
「幸せになるために‥‥‥?」
思ってもみなかった言葉に思わず聞き返すと、陽向くんは頷いた。
「そうだよ。それにきっと、空の向こうで望んでいると思うんだ」
そう言いながら、陽向くんは空を見上げた。
まるで、空の上にいる誰かを見るかのように。
そして、陽向くんの目が再び私を映した。
「だから、蒼のペースでいい。焦らずゆっくり前を向いていこ?」
前を向く‥‥‥。
それは、私がずっと逃げていたこと。
お父さんは、私が幸せになることを望んでいないと思ったから。
でも今は、陽向くんの言葉で少しだけ心を動かされている自分がいる。
お父さんは、本当は私が幸せになることを望んでいるんじゃないかって。
まるで、陽向くんがそう言っているみたい。
「蒼を笑顔絶えないぐらいに楽しませるから覚悟してて」
陽向くんは、明るい笑みを向けてくれた。