桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「ねぇ、お母さん」
「んっ?」
「ずっと疑問に思っていたんだけど、どうしてこの町に引っ越しすることにしたの?」
そう尋ねてみると、お母さんは少し驚いた後すぐに優しい表情を浮かべてこう言った。
「それはね、昔、この町に住んでてお父さんと過ごした懐かしい町なの。だから、もう1度この町で過ごしたいと思ったんだ」
ずっと前に、お父さんが話してくれた記憶がある。
ーー『昔な、この町に住んでいたんだよ。お母さんと2人で』
私には分からないけれど、きっとお父さんとお母さんにとって思い出が詰まった町なのだろう。
「それに、引っ越しした理由はもう1つあるの」
なんだろう?
「あの子なら蒼を明るい方向へと変えてくれそうな気がしたの。だから、あの子が住んでいるこの町に引っ越してきたのよ。いつか、会えるんじゃないかって」
「‥‥‥あの子?」
聞き返すと、真剣な表情でお母さんは私を見つめた。
「蒼、本当に事故直後のこと覚えてないの?」
そう言われて、事故直後のことを必死に思い出そうとするけれど、その一部が切り取られたみたいになかなか思い出せない。
「‥‥‥うん」
「そっか‥‥‥無理に思い出させるのも悪いわね」
そこで、レンジが温まった音を告げ、話はそこで終わってしまった。
私は、なにかを忘れている。
それは、きっと、7年前のあの日。