桜の花びらが降る頃、きみに恋をする

以前、住んでいた場所は隣の県。

この賑やかな町とはかけ離れた長閑な町だった。

人通りは少なくお店も少ない。

バスや電車は1時間に1本来る程度。

それでも、あまり不便を感じたことはなかった。

辺りには田んぼや畑、山に囲まれて自然豊かな場所で15年間育ってきた。

ーーしかし。

私が中学3年生の頃、地元の高校に進路を決めようとしていた時‥‥‥。

『蒼、中学卒業したら引っ越ししてみない?』

突如、お母さんが言った言葉である。

最初は驚いたけれど、あの日からずっと1人でいる私を見据えたのだろう。

地元の高校は1つしかなく中学卒業しても、だいたいの人はそこに進学するから。

また1人になることは分かりきっている。

お母さんの後押しもあって、隣の県のこの町にある高校を受験した。

偏差値は少し高かったけど、無事合格。

そして、お母さんの言葉通り中学卒業するとこの町に引っ越してきた。

この町は初めてではなく、あの日、家族とお出かけ先として来たことがある町だ。

それなのに、1つ県を跨いだだけでこんなにも町の光景が違うのかと改めて酷く痛感した。
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