桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「その前に、1つだけ確かめたいことがあるんだけどいいかな?」
きっと、お母さんが話していたことだと思いながら、恐る恐る頷いた。
「さっき、お母さんから話を聞いたんだけど、今日のことどこまで覚えてる?」
「えっ、えっと‥‥‥水族館の帰り道、車に轢かれそうになったところをお父さんが庇ってくれたところまでで‥‥‥」
俯きながらなんとか答える。
思い出すだけで辛いのに、それを言葉で伝えるとなるともっと辛くてまた涙が出そうになる。
「その事故直後の記憶はある?」
先生の問いかけに、小さく首を振った。
「気がついたら、ここに‥‥‥」
「‥‥‥そっか。辛いのに話してくれてありがとう」
先生はそっと私の頭を撫でた後、お母さんと再び向き合った。
「先生、やっぱり蒼は‥‥‥」
お母さんの言葉に先生は頷いた。
「蒼ちゃんは、お父さんを失ったショックにより事故直後の記憶をなくしています」
先生は少し暗い顔をしてそう言った。
「無理に思い出させようとすると、かえって蒼ちゃんを傷つけてしまう可能性があります。それに、蒼ちゃんはまだ小学生。なので、このまま思い出せないままでいるのもいいかもしれません」
「そんな‥‥‥あの子が知ったらとても悲しむわ。まして、先生のお子さんなのに」
‥‥‥先生のお子さん?
「こればかりは、どうすることもできません」と、先生の表情は少し悲しんでいるように見えた。