桜の花びらが降る頃、きみに恋をする
「蒼‼︎」
突然、声が聞こえてハッとする。
その途端、誰かが私を抱きとめた。
顔を見上げると、陽向くんが私の体を支えていた。
「い、一ノ瀬くん! こ、これは違うの!」
いきなりの陽向くんの登場で慌てる神崎さん。
「なにが違うの? 全部、聞こえてたんだけど」
今までに聞いたこともない陽向くんの低い声。
もしかして、怒ってる?
「そ、それは‥‥‥」
と言いかけて、押し黙った神崎さん。
私たちの間に、不穏な空気が流れた。
でも、その沈黙を破ったのは陽向くんだった。
「確かに、神崎さんの気持ちに答えられない俺が悪かった。でも、それで人に八つ当たりするのは間違ってる。それに、これ以上、蒼を傷つけないでよ。蒼のこと、なにも知らないで平気でしないで」
その直後、ぎゅっと体が引き寄せられた。
「‥‥‥⁉︎」
あまりの急で動揺して少し顔を上げると、陽向くんの顔がすぐ近くにあって、その目は真剣そのもので‥‥‥。
「それに、俺が蒼の傍にいたくて隣にいるわけだから。なにも悪くない蒼を責めないで。また傷つけるようなことをしたら絶対に許さないから」
陽向くんは私を庇ってくれた。
1つ1つのその言葉に温かいものを感じて、胸がジーンとする。
「‥‥‥っ、分かったよ」
そう言って神崎さんは目にはうっすら涙を浮かべて走り去ってしまった。